パンに使うイーストの運用法につきまして

材料の運用/製法の考察
わたしは、家庭用においては有名なこのイースト一択です

イーストとは、ご存じの通り「酵母」の事です。なんか「イースト=科学的加工食品」で「酵母=天然素材的な食品」と「なんとなく違うもの」と思っている方も若干いるようですが、まったく同じものです。パンの好きな人なら周知の事実だと思います。ここでは、ありきたりな「イースト=酵母ってなに?」というような説明は致しません。この種の文献は色々あると思います。それよりも、「実践的な使用方法」を説明したいと思います。

目次

A、イーストは2種類に大別できる

B、イースト起こし

C、インスタントドライイーストと生イーストの変換率

D、イーストの投入量

E、イーストを使用する際の目標とする目安

A、イーストは2種類に大別できる

①フランス型イースト、、、、マルターゼ(麦芽糖分解酵素)を多く含んでおり、マルトース(麦芽糖)を栄養素にして発酵が促進しやすい特徴があります。瞬間爆発的な発酵は望めませんが、ゆっくりと、長きにわたって活性を維持できます。浸透圧には弱く、大量の糖質を含む生地の中では一定割合で死滅してしまうこともありますが、逆に低糖質な生地においては、小麦粉や、麦芽(モルト)エキスから着々と麦芽糖を餌にして長きにわたり活動を続けます。

②国産型イースト、、、、インベルターゼ(ショ糖分解酵素)を多く含み、インベルトース(ショ糖)を栄養素にして発酵が促進しやすい特徴があります。大量のショ糖を利用して瞬間爆発的な発酵が望めますが、反面、早めの活性のピークを過ぎると一気に活性力がおちます。その特性上、浸透圧には強く、大量の糖質の生地の中でも死滅することはありませんが、逆に低糖質な生地においては、ショ糖という栄養源をすぐに失ってしまい長く活動を続ける活性力はありません。

そして、インスタントドライイーストはほとんどすべて、フランス型といってもいいでしょう。それは、「ドライイースト」という過去の製品を経由して上の写真のメーカー様が圧倒的なシェアを誇っているからです。もし、他のメーカーのインスタントドライイーストをみつけたら、裏の成分表示を見てください。きっと、「原料原産国:フランス」となっていると思います。

次に国産型イーストは、=「生イースト」と言えるでしょう。イーストはもともと単細胞生物の生き物です。国産のイーストが「生イースト」として主流になるのは自然な必然だと思います。生イーストはインスタントドライイーストよりも、生産コストが安く済むからだと思います。わざわざ国産のイーストをインスタントドライイーストにしても、手間はかかるし、先述の大手メーカーのコストパフォーマンスには敵わないでしょう。

ただし、生イーストは加工に乾燥処理がないので、イーストの特徴を最大限に利用できます。「冷凍耐性イースト」など、イーストという単細胞生物の交雑品種改良を経てバラエティーに富んでいます。そしてなにより生イーストは「生」なので、すぐに確実な活性を始めます。映画の世界じゃないですが、「冷凍睡眠した人間」「生きたままの人間」どっちが確実に活動再開を始めるでしょうか?いわずもがなですよね。これが生イーストの良さなのですが、最大の弱点が有ります。消費期限が7~14日ほどしかないことです。例外もあります。最近では生イーストの水分を多くしてリキッド状にして冷凍保管された「フランス型生イースト」もあります。ただこれは、ニッチすぎるので、業務用にはいいとしても、とても家庭用に反映させることは難しいと思います。

結論。わたしは、家庭用においてはインスタントドライイースト一択です。ただし、この運用には弱点が一つあります。インスタントドライイーストは活性を始めるのに時間がかかるので、最低でも1時間かかります。つまりです、皆様、インスタントドライイーストを使うパンは必ず最低1時間は一次発酵を取りましょう。じゃないと、イーストが「イーストとしての役目」を果たしてくれないからです。では、「一次発酵を30分程度に抑えたい生地はどうするの?」と、なります。そこで私が提唱するのが、「イースト起こし」です。なにか「自分が発案者?」気どりな発言に見えますが、そんなことはないです。もともと「インスタントドライイースト」に至るまでに商品としてあった「ドライイースト」という、発展途上の商品がありました。「ドライイースト」には「イースト起こし」という下処理が必要でした。実際のところ、「ドライイースト」には、死滅してしまった不活性酵母も多く残存し、そのせいで、生地がペタペタ(生地の抗張力が抜けた状態)になりやすかったり、でも、「その風味が旨いんだ」という人もいて賛否両論の商品でした。これを完璧に仕上がった「インスタントドライイースト」に「ダメ押しか」とでもいうように「イースト起こし」の下処理をしてあげるのです。つまり「インスタントドライイースト」を「生イースト」状態にしてあげるのです。

B、イースト起こし

①使いたいインスタントドライイーストの分量+イーストの分量の1/5の糖質+イーストの分量の5倍のぬるま湯を用意する。下の写真ではわかりやすく「イースト:糖質:水分=5g:1g:25g」とします。

左からきび糖、インスタントドライイースト、ぬるま湯

②ぬるま湯はざっくり40℃とします。上の材料を混ぜたうえで、更にその材料が40℃をキープできるように別に用意したぬるま湯に「湯煎状態」にします。そして7~8分寝かします。下の写真は寝かした後の写真。

湯煎しながら7~8分経過して、小さいホイッパーで攪拌が終わったところ。待ってる間はフタをしてイーストが乾き、湯煎の温度が下がるのを防ぎます。

③7~8分経過すると、もともと純粋培養されてイースト密度がマックスな「インスタントドライイースト」は酸素を欲しがります。「窒息しちゃうよ!」ってな感じです。でそこで一回攪拌をしてあげることで、酸素の再供給を促します。そしたらまた7~8分また寝かします。定義的には「寝かします」というより「水分を与えて復活させて、酸素を吸わせ、糖分を食べさせて活動を再開させる時間」とでも言いましょうか。

④あら不思議!「インスタントドライイースト」の「生イースト」化完成です。下の写真。

15分経って、出来上がり。このままだとすぐにイーストが劣化してしまうので、ミキシング開始の投入直前に仕上げるのが肝心です。
ブクブクと活動を始めております。

C、インスタントドライイーストと生イーストの変換率

平均的な成分表示を表記します。

①インスタントドライイースト

水分 5~6%

乳化材(主にビタミンE)、Lーアスコルビン酸(ビタミンC) 1.5%

純粋培養された酵母(イースト)92.5%~93.5%

②生イースト

水分 70%

純粋培養された酵母(イースト) 30%

そして次に、「発酵力の違い=どれだけ生地を膨らませられるか>どれだけ酵母が酸素と糖質を吸収して、窒素を吐き出すか>どれだけ気泡を作れるか」を私の経験から数値化。

同じ程度の量の気泡を作らせて、同じくらいまで膨らませるだけのイースト菌の量

国産イースト(生イースト):フランス型イースト(インスタントドライイースト)=1:1.2(※フランス型イーストは活性力が国産イーストに較べると「おとなしい」ので、2割のフランス型イーストの援軍要請によって国産イーストとほぼ同じ活性力になることがわかります。)

で、総論になります。生イーストとインスタントドライーストの酵母の存在量は「生イースト:インスタントドライイースト=ほぼ1:3」となります。そして生イーストとインスタントドライイーストが同等の活性力になる菌数は「生イースト:インスタントドライイースト=1:1.2」となります。

例えば「インスタントドライイースト3gというのは生イーストならどのくらい使えばいいの?」となった場合、インスタントドライイーストの酵母存在量は生イーストの約3倍なので、9gの生イーストで同じ量の酵母存在量にすることができます。でも生イーストのほうが活性力が高いので、上記の活性力比率に当てはめて、酵母存在量ではなく同じ活性量を算出しないと同じふくらみを持たせるパンにはできません。で、「生イースト:インスタントドライイースト=1:1.2=ⓧg:9g」と、算出してあげます。「1.2ⓧg=9g」は「ⓧg=7.5g」となります。なので、答え:インスタントドライイースト3gは生イースト7.5gで同等の活性力を有する。となります。めんどくさいですね。でも2つの定義はともに「掛け算、割り算」になります。なんで、ひとまとめに要約できます。

同等活性させる為の比較使用量=インスタントドライイースト:生イースト=1:2.5

です。なので、B%で「インスタンドライイースト1%使用」というのは、「生イースト2.5%使用」というのと同じことが言えます。もし皆さまが、「インスタントドライイーストを生イーストに差し替えたい」とか、「生イースト表記のプロのレシピをもらったので、それをインスタントドライイーストで自宅で再現したい」という場面に遭遇したとき、この比率を覚えておけば、かなり役に立つと思います。※ただし「生イーストの替わりにインスタントドライイーストを『イースト起こし』で使う場合」は、その起こしたイーストには生イーストの約倍量の水分が含まれていますので、その『起こしたイースト』の総量の半分の重さ分の水分を、捏ねる際の水分から差し引きましょう。※逆に「イースト起こし」をしないで”生イーストの替わり”にインスタントドライイーストを投入する場合は、インスタントドライイーストの重量の2倍の水分を、捏ねる際の水分に足しましょう。

ただし、最初のイースト菌の特徴の説明の様に、2つのタイプとも癖はあります。大抵プロは1h未満は生イースト、1h~2hはインスタントドライイースト、生イーストを生地の特徴で使い分け、2h以上はインスタントドライイースト使用(時間はフロアータイム=一次発酵のことになります)(天然酵母などもインスタントドライイーストと同じ枠組みでとらえる場合が多いです)。という場合が多いです。家庭でパンを作るときはインスタントドライイースト一択になりがちでその「1時間未満のフロアータイム(一次発酵)」のタイプのパンにインスタントドライイーストを適用させるために「イースト起こし」が必要になるわけです。

D、イーストの投入量

早見表をみると「あ~、だからあのレシピはイースト5gってなってるのか~」とか、理解できるかもしれません。補足事項としましては、①食パンは2段階の成形が一般的です。つまり2回のベンチレーターをとるので、より発酵が進んでしまいます。また、型に沿うように「穏やか」に膨らます必要がありますので、一般的には「早見表」のイースト投入量を1ランク落とします。②最大一次発酵時間を「12h~」でマックスにしてあります。これは常温で12h以上となりまして、一晩冷蔵庫で生地を寝かす「長時間発酵パン」や「天然酵母パン」は大体この範囲に入ります。多分、最大でも「24hのインスタントドライイースト添加量0.1%」が限界点だと思います。本ごねの生地を常温で24h以上熟成させると分解が進みすぎて抗張力を失い、パンが思うように膨らまないことでしょう。

天然酵母パンは「種起こし」でイーストをやっとこさ微量抽出して、それを「種継ぎ」によって培養します。結果として「本ごね生地に発酵種を加える時点」で、天然酵母のイースト菌がインスタントドライーストでいう「0.1%~0.2%」と同じくらいのイースト量になる様に前段階の「天然発酵種」を「種継ぎ」によって完成させる必要があります。天然酵母パンを作る人は、そうして「完成させた種」を作って「長時間発酵」によってパンを作ることになります。なので、インスタントドライイーストを使ってパンを作ることと、天然酵母パンを作ることは決して無関係ではなく、むしろ「パンを作る根っこの部分は一緒である」と言えます。

E、イーストを使用する際の目標とする目安

基本的には上の早見表の通りの投入量で問題ないと思います。でも、よりおいしいパンを作るために標準以上に微調整をする場合の目標があります。それは「仕事でパンを作っていた人」が師匠から事あるごとに、耳にタコができるくらい言われた格言があります。「最小限のイーストで、最大限に膨らませ」。です。①イーストの入れすぎると、小麦粉や副材料の旨味をイーストが食べてしまいます。②イーストは長時間の活動により発酵アルコールなどを分泌するので、短時間では呼吸の基本になる「窒素」しか吐き出していないので熟成感のない味になる。③イーストという単細胞生物自身は「パンの焼き上げ」によって死滅します。これが多すぎると活性を十分にしないまま死滅する余分なイーストがパン生地に残ります=これは不活性酵母の死骸の一部となり、苦みやエグミのもとになります。なので、たとえば、とあるパンにインスタントドライイーストを入れる時、1~1.5%の許容範囲があるとします。それならば、間違いなく許容最低量の1%を採用した方がおいしくなります。イーストは可能な範囲で最小限の使用にとどめるのが一番です。(※もちろん無理に減らしたら「膨らんでない只の小麦粉の塊」になってしまうので”可能な範囲の最小限の量”というわけです。)

以上になります。

皆様のお役に立てれたら幸いでございます。

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