パンに使う小麦粉につきましての諸々の概念

材料の運用/製法の考察

今現在使用している粉群(強力粉)。あとは写真外で国産薄力粉の「ドルチェ」や白い色目の強力粉の「春よ恋」、他には米粉やコーンスターチ、上新粉や片栗粉なども使用しています。

パン作りには向いた粉はざっくり「強力粉」。とまとめられてしまっている場合がほとんどです。では、パン作りの小麦粉の適正要素とは一体何でしょうか?そこを説明していきたいと思います。

①たんぱく含有量

これは、どこでも説明していると思います。蛋白=小麦グルテンです。では、グルテンとは何か?多分「小麦グルテン粉」なるものをみたひともいるかと思います。これは小麦粉からグルテンだけを抽出した粉です。これを実際に水で溶くとものすごくわかりやすいです。まるで「天然ゴム」のようになります。これがパンの骨格を成す成分といえます。このゴムを「蜘蛛の巣状」に形成して焼いて固めるのがパンになります。対して、卵を泡立てて焼いて固めたものがケーキになります。なんで、ケーキは卵を固めて作るので小麦粉のグルテン成分を引き出さないように「さっくり混ぜる」のが基本になります。反対にパンはよく捏ねてグルテン成分を抽出し、さらに捏ねて、また更に発酵させて「蜘蛛の巣状」のスポンジ組織を形成したうえで焼き固めます。そうすることで天然ゴムのような物質もよく空気を含んでスポンジのようになり、柔らかい生地に仕上がります。蛋白含有量は、つまり、その成分の含有量になります。月並みですが、ざっくり、ケーキに使うような薄力粉で9%未満、逆にパンに使う強力粉は11%以上、その間のものが中力粉=うどん粉(9%~10.9%)。これが目安になります。多目的用途でパンを作るなら11.5%の含有量は欲しいところです。ですが、小麦粉も農作物。人間の都合のいいようには育ちません。実際は同じ粉でも±0.5%くらいのムラが出ます。なんで、11.5%±0.5%以上の粉を使うとパンつくりには差し支えないと思います。メーカーは保険をかけて±1%と表記しているところが多いですが、実際は体感、±0.5%以内で収まっていると思います。わたしは、使ってみて万能だと思った国産小麦、「春よ恋」「キタノカオリ」を2択で使っています。ちなみにアメリカ、日本ではこの「蛋白含有量」を小麦粉の分別法として採用しています。

②灰分量

灰分とは、小麦粉の胚乳部分を粉にする際に、胚乳のでんぷん質タンパク質とは別成分の、不純物。といえます。でも、内容はビタミン、ミネラル、マグネシウムetc.といった栄養素から構成されます。製パンのグルテン骨格を作る際には邪魔になりますが、そのかわり、栄養素の豊富なパンに仕上がります。灰分が多いほどボリュームは抑えられますが、うまみは強くなります。灰分がおおいほどパンの色はくすみがかり、白さを失います。なので、求めるパンにあわせて、使い分けるといいと思います。わたしは白さを求めるなら、「春よ恋」。うま味を求めるなら「キタノカオリ」を使っています。ちなみにヨーロッパの多くは小麦粉を「灰分量の多い少ない」を小麦粉の分別法として採用しています。

③小麦粉の品種と、粉として買う場合のブレンド品種か単一品種か

わたしは、粉の安全を確認できるため、また、ブレンド粉の内訳の詳細はメーカーの機密事項になってしまい確認できないことも多いので、単一品種を使用しています。勿論、ブレンド粉のほうが安定しますが、単一品種のほうが「自分で粉の特性を計算しつくしてレシピを作り上げた」というハンドメイドの達成感と満足感が増しますよね。それと、粉の個性が出ますので、はまれば無双の美味しさになると思うんです。北米産のノーザンスプリングとか、品種自体は挙げればきりがありません。品種の特性を知り尽くすのは、小麦農家でもないと無理だと思います。そこで、「春撒き小麦」と「秋撒き小麦」の大きな品種の分別だけ覚えておくといいと思います。「春撒き小麦」は春に種を撒いて、秋に収穫する小麦のことです(それにより、品種も春撒き用品種で作られます)。「秋撒き小麦」は秋に種を撒き、越冬をして春に収穫する小麦のことです(春タイプ同様、秋には秋撒き用品種で作られます)。共に長所短所があります。春撒き小麦は夏を過ごす分、死滅可能性が低いので生産量が安定します。短期間に実りを迎えるので灰分も比較的少ないです。ですが、雨季の影響を受けやすいので、時々品質にムラが出ます。秋撒き小麦は、越冬を通してじっくり栄養分が蓄えられるので、旨味が強いです。ただし、冬の寒さが厳しすぎる年は死滅する可能性も出てくるので、生産量は安定しません。他、細かいことは挙げればきりがないですが、ざっくりそんな感じです。それより先の仔細は小麦育成専門の分野を各自でググってください。わたしは、春撒き用の国産メジャー品種として「春よ恋」、秋撒き用国産メジャー品種として「キタノカオリ」をチョイスしています。蛇足ですが、15年位前に新潟産小麦の「地粉」を使用したとこがありました。まあ、パンを作るにあたって、安定しなかったことを覚えています。生地に加える水分量が平気で5%前後変わる時もあれば、同じように仕込んで、全然グルテンが立たなかったり、そうかと思えばしっかり膨らんでみたり。でも、最近の国産小麦の進歩には目を見張るものがあります。今では、そんなことが全然ないんです。しかも、「仕事でパンを作っていた人」目線でいえば、非常に値段も安価になりました。「近年、国産の小麦粉の品質と価格が安定」という、この衝撃的事実がある背景には、日本の小麦生産者の努力と、積み重ねの結晶があると思います。皆さん一般消費者は何故この日本人の快挙に目を向けようとしないんでしょうか?と思うばかりです。たしかに、外国産小麦の1.5~2倍の価格にはなりますが、肉とかほかの生鮮食品に比べたらたかが知れてますよね?しかも安全です。炭水化物は普段の食事の底辺を支える食料です。ここは「ケチっちゃダメでしょう」って思うんです。こういう側面を含めてもっと国産小麦を楽しみましょう。と、提言致します。

④小麦粉のタンパク質の性質

他社様の記事で目にするのは「やっぱ、国産小麦は外国産小麦のようにパッツーンと巣立ち(気泡)が縦に伸びないですよね」と、いうのがよくあります。小麦粉は生産地と品種ごとのタンパク質=グルテン質の性質の違いが当然あります。先述の通り、グルテンは「天然食用ゴム」のような成分になります。では、皆様、ゴムとは何をもって「ゴム」というのでしょう?。それは、ゴムのように「伸びる力」と、ゴムのように「縮む力」の性質から構成されています。これがいわゆる「弾力」というひとくくりにされます。皆様、弾力の違いを考えたことがあるでしょうか?。「ナタデココ」の食感の弾力も、子供のおもちゃの「スーパーボール」の弾力も「弾力」です。でもまったく性質の異なる弾力ですよね?そこに秘密があります。製パンには「引き」(縮む力)、「伸び」(伸びる力)という、2つの用語があります。このバランスが大事なのです。よく製パン講師時代に説明していました。「シャボン玉はよく伸びるけど、縮まないですよね?だからすぐ割れちゃうんです。」「風船のゴムはよく伸びるけど、よく縮むので膨らますの大変ですよね?でも、風船ってシャボン玉よりずっと長く空気の気泡を維持できますよね?それはよく伸び、よく縮むからです。」「これを伸展性と抗張力といいます。」と、説明していました。「引き」と「伸び」。実はこれが製パンの生地の肝です。そして、これは粉の品質によって値の上限が決まってしまいます。カナダ、オーストラリア、北米産の小麦は「簡単にパンができる」と、よく言われますよね?それはよく伸び、よく縮むからです。フランスパンは「大きな気泡が入っているフランスパンがおいしいフランスパン」とよく言われますよね?それはフランスの小麦粉のグルテン質が「引き」が弱く、「伸び」が強いからです。よくフランスの製パンの世界では「捏ねないで、よく熟成した生地がおいしいパン」と言われます。フランス産の粉は引きが弱いので捏ねすぎるとすぐグルテンが弱ってしまうからです。昔、若い頃わたしは、日本の外国産小麦でそれを実践しました。そしたら、「粉っぽい」「なまっぽい」っと、みんなから言われました。引きの強いグルテン質の小麦粉を少ししか捏ねないとそうなります。また、熟成が足りないとそうなります(しっかり、熟成すれば熟成による分解を伴って、生っぽくなりません)。つまり、選定した小麦粉のグルテンの性質に見合った「捏ね(ミキシング)」と、「熟成(発酵)」が必要になるということです。では、別方面でドイツパンとかはどうでしょう?ライ麦は「引き」も「伸び」も弱いので、フランスパンのような「大小の気泡」もなければ、柔らかい食感もありません。なので、熟成した「風味」を重視した固めのパンが「美味しい」という基準になるのです。フランスではパン研究も進んでいますので小麦粉の「引き」と「伸び」のバランスのことを「ベオグラフ表」とかで、算出、公表しています。この要素が日本の製パン業界では見落とされていることが多々あります。さて、日本の小麦粉はどうでしょう?品種改良によってよく「引く」高たんぱくの小麦粉が開発されました。ですが、カナダ産小麦のようにパッツーンと縦に伸びる気泡ができないのは何故でしょうか?それは日本の小麦粉が品質、気候、地質などの要素によって「伸び」が少ないからです。これは、日本の小麦粉の特性なので、仕方ありません。では、どうやってグルテンに「伸び」を与えるか。それは、よく水を吸わせ、よく生地を熟成させて「軟化」させてあげることです。こうすることで国産小麦の短所を補うことができます。そのように生産地の品種に適した製法を用いれば問題はありません。そのような角度から「日本の小麦粉」を評価すると「世界に誇れる品質」の小麦粉であることがわかります。欧米基準の製法で比較するから「日本の小麦粉は扱いずらい」となってしまうわけで、ちゃんと小麦粉の特性に合わせれば日本の粉はとても優秀です。

⑤小麦粉の鮮度と管理

日本における小麦粉に対する考え方に欠落しがちな部分ではあります。一般に小麦粉に消費期限はありませんが、基本の消費期限は6か月と言われています。小麦粉でパンを作る際は小麦粉の味がダイレクトに反映されますので、賞味期限(おいしく食べられる期限)でいうと、3か月が目安になります。順を追いますと、まず小麦を製粉した日付が製粉会社直送の小麦粉の「製造年月日」になります。そして仲介業者(原料小売業者)が、ブランドを貼った小袋に小分けした時点でそこのブランドの「製造年月日」になり、各小売業者は自社のブランドの名誉にかけて(「私たちはその商品の品質を期限日まで保証します。」という意味合い)「賞味期限」を設定します。ここで問題なのは2つ。まず一つ目は製粉会社が小麦の粒を粉にするまでにどのくらいの長さで保管したか。2つ目は小売業者が小麦粉を専用パックに小分けする前に製粉会社から買った小麦粉をどのくらいの長さまで保管したか。この2つは、末端の消費者は正確に知ることができません。製粉会社さん、小売業者さんを一方的に信頼するしかありません。なので、ある程度メジャーなメーカーからの購入をお勧めします。製粉会社なら、みんなが知っている「日清」「日本製粉」「鳥越製粉」など、地方のメーカーなら、ネットで正確な表記がされているものを選びましょう。消費者はある程度その「小麦粉という加工食品」を知る権利があり、それは法で守られています。製造者は消費者に「商品規格書」を提示する務めがあります。消費者が「こちらの商品の規格書を下さい」といったら、気持ちよく提示していただけるような会社で小麦粉を買うようにしましょう。今なら、ネットでPDFで提示してくださる優良な会社も多いです。小売店なら「富澤商店=トミーズ」「クオカ」「プロフーズ」など、有名な製パン製菓材料の小売業者で購入することをお勧めします。メジャーな会社の商品は自社の「看板」に傷がつくような粗悪品は絶対に扱わないので、間違いがないです。つぎに、ここからはわたくしたち消費者の番です。小麦粉の保管とその管理についてです。小麦粉を適当に管理されている方も多いのではないでしょうか?。小麦粉は紫外線や、湿気や、温度変化にとても敏感です。小麦粉は常温保管になりますが、気温の変化、湿度の変化、明暗の変化が少ないところで保管しましょう。台所の下とか、よくありますよね?あそこは気温の変化、湿度の変化が意外に大きいです。常に暗いですが。なんで、わたしは、保冷剤も何も入れない密閉できるクーラーボックスで保管しています。路面店舗様とかなら使っていない冷蔵庫などでも結構です。とにかく裸で外に置いておかないように「専用粉保管庫」で保管することをお勧めします。お米って、古くなるとまずくなりますよね?。でもお米は粒状です。粒を砕いた粉状の物が粒より劣化が早いのは明白の事実です。粉はデリケートなので、しっかりとした保管環境で、かつ、早く使い切ることをお勧めします。わたしが家でパンを作る際多くの種類の粉を扱わないのは「早く使い切る」のが一番の目的だからです。家庭なら60日~90日、パン屋さんなら2週間くらいで買った粉を使い切るようにするといいです。お魚の刺身に例えましょう。どんなにお刺身をうまく作れる技術があったって、お魚が痛んでいたらおいしいお刺身は作れません。製パン製菓もそれと一緒です。「パンつくりが安定しない」という方がもしいましたら、この部分を疑ってかかるのが間違いないかと思います。

⑤以上を踏まえたうえでの私の粉の運用法

で、わたしの結論。現時点で「パンの白さを出したい場合、甘味や風味を多めにつけたい場合、春よ恋100%」、「小麦の味を最大限に引き出したい場合は、キタノカオリ96%、北海道産全粒粉 春よ恋(石臼挽き)2%、北海道産ライ麦全粒粉2%」を2大ベースにしています。不規則な生活をしていますので、天然酵母は使用しない派です。生活がパンで縛られてしまうからです。でも、天然酵母の種って、種起こしや、種継ぎで少なからず全粒粉やライ麦を使用します。その種の風味の半分は実は熟成したライ麦粉や、全粒粉の風味だったりします。なんで、おいしい小麦粉「キタノカオリ」に少量のライ麦と全粒粉を入れるだけで、風味がぐんとアップします。お試しいただければと思います。それにグッと健康的な食物になります。全粒粉の胚芽の部分には、糖質の吸収を抑える成分があったりします。お話は少しそれますが、食物そのものは「丸のまま」が一番だと思っています。サンマなら内臓を一緒に身も食べる。とか、お米は白い部分と周りの茶色いを削ぎ落してない「玄米」を食す。とか、食べ物は大抵「一個丸のまま」で完結している場合が多いと思います。一個丸のままで、栄養バランスの±が完結しているように思えるのです。かといって、牛肉を牛の骨と一緒に食べる。とか、そんなワイルドなことはできませんよね?。そこで、普段「一個丸のまま」の食品を人類が「食べるところ」として抽出した部分(例えばご飯なら白米)に、本来食べられるのに人類が「食べられない」として排除した部分(例えばお米の白い部分の周りの茶色い部分⦅を削ぎ落していない玄米⦆)を少し意識的に足すわけです。そうすると、無理なく、食材の互いの存在を引き立たせつつ、さらにその食材の悪い部分も相殺してくれるのです。話を元に戻します。そんなフランスのパンは何でしょう?。カンパーニュです。カンパーニュは本来「田舎風」という意味しかなく、これといった定義はありません。フランスパンベースに少量のライ麦や全粒粉を加えたものをいいます。理想のパンです。わたくは、これを粉ベースで再現しています。

いかがでしたでしょうか。いい意味、悪い意味どちらでもよいのでコメント頂けたら、今後のわたくしの参考になりますので、(コメントのほうも)よろしくお願いいたします。PS:小麦粉以外の粉類は別生地で紹介したいと思います。

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